週末の薬指

それでも、やっぱり夏弥を目の前にして優しく声を交わすと、一切のわだかまりも不安も消えていくようで、悔しさと嬉しさが交互にやってきて。

「私だけって、本当だよね」

負けないくらいに甘い声で言い返した。

「本当だよ。じゃなきゃ、仕事繰り上げて会いにくるかよ」

「繰り上げて……って、大丈夫なの?」

思わず大きくなった声に、小さく笑って『多分』と言ってる夏弥。

その隣にいた蓮さんが、呆れたように

「バカップルのじゃれ合いはもういいから、飯。飯もらおう。腹減ってるんだ。
こっちは修学旅行で生徒に振り回されて疲れ果ててるんだ。希未だって待ってるっていうのにこのストーカー男を連れてここまできたんだ。いい加減早くしてくれ」

大きくため息をついた。げんなりという表現がぴったりな顔で、私と夏弥を交互に見ている。

「本当、早く希未に会いてーのに全くこの男、俺らの学校に交じって沖縄脱出しやがって。おかげでこっちは無駄な労力使ったよ。さあ、めしめし」

さっさと上り込んで、おばあちゃんがばたばたと準備しているに違いないキッチンへと行った。

「えっと……俺らの学校って?」

呆然としながら夏弥に聞くと、思いがけない答えが返ってきた。

「ああ見えて、蓮は高校の先生なんだ。……とりあえずあの見た目の良さで、女の子に大人気の数学の先生らしい。で、今日はあいつに助けられたんだ」

「え?助けられた?」

蓮さんの後を追うようにキッチンに向かう夏弥は、私の肩を抱くと耳元に唇を寄せて

「マスコミに踊らされて俺をしめだした花緒ちゃんに会うために、蓮の力を借りたんだよ」

拗ねたように笑うと、そっとキッチンに視線を向けて。

「今のうちに」

誰も私たちを見ていないのを確認しながら、そっと唇を重ねた。

二日ぶりのキスだけど、もっと長い間この熱を感じていなかったように思えて、私も自然と身を寄せた。