週末の薬指

「ようやく会えた」

ほっとしたように呟いた夏弥は、驚く私に苦笑しながら小さく息を吐いた。

「これからは、どんなに腹が立っても、携帯切るのだけはやめてくれ。正直参る」

心底参っているのか、その顔には疲れも見えた。

ただでさえ沖縄から帰ってきたばかりで疲れてるはずなのに、私に会いに来てくれた事が、なんだか申し訳ない。

さっきまでの夏弥に対する重苦しい気持ちがあっという間に小さくなるのを感じた。

結局、私は夏弥の手の平の上で転がされているのかも知れない。

それにしても、どうして今目の前に夏弥がいるんだろう。

「ねえ、明日の晩に帰ってくるんじゃなかったっけ?」

呟いたと同時に、それまで夏弥の背後にいて見えなかった男性が顔を出した。

「へえ、これが夏弥が何年もストーカーしてた女か。想像してたよりも普通の女だな」

まるで私を検分するような視線と、どこか納得いかないような歪んだ表情で私をじっと見遣る様子に呆然としつつも、『何言ってるんだよ』という夏弥の言葉を聞いて、無言のままその男を見返した。

「夏弥が惚れ込んで結婚まで決意するくらいの女だから、どれほどかと思えば。
うちの希未の方がいい女だな」

ふふん、という言葉とともに私に向ける大柄な態度。

一体誰なんだろう、この礼儀知らずな男。

見た目はいいけどこんなに意地悪そうな……え?希未って言った?

「希未って、あの、希未さん?指輪の……」

驚いてそれ以上何も言えないまま夏弥を見ると、私の驚きに笑いながら頷いていた。