週末の薬指



店内をゆっくりと歩く夏弥は、長身と見た目の良さでかなり目立っている。

ちょうどお昼休みの時間帯だから、ランチに来ている女の子も多くて一斉に注目を浴びるけれど、本人は全く気にしていないようで、その瞳が私を捉えた途端に優しく微笑んで真っ直ぐに私の元へと来てくれた。

「どうして?偶然……じゃないよね」

私の隣に腰かけた夏弥に聞いてみるけれど、曖昧に笑って肩をすくめるだけ。

向かいのシュンペーの隣に座った弥生ちゃんが、そんな夏弥をかばうように慌てて

「ちょうどお店の近くで偶然会ったのよ。そう、偶然。近くに仕事で来ていたらしくてさ、私が無理やり連れてきたの。……気が利くでしょ?」

その時、ちょうど置かれたお水を一気に飲んで、その話はそれで終わりとでもいうように区切った弥生ちゃん。

なんだか違和感を感じて落ち着かない。

偶然って……一番この場にふさわしくない言葉のように思えるけどな。

隣の夏弥を見ると、相変わらず読めない表情をまとって、メニューを見ていた。

仕事でこのあたりに来ることなんてあるんだろうか……。

オフィス街ど真ん中なのに、住宅販売の営業に来るなんておかしいような、あ、お客さんの職場まで出向いて打ち合わせとかが、あるのかな。