週末の薬指

「えっと、どうかした?結婚って、日程とか決まってない?ま、そんなにすぐには決められないか……」

そう呟きつつ、自分の事を思い出す。夏弥に預けてある婚姻届。

私と夏弥の結婚はあっという間に決まってしまったな、と。

出会ってからも日が浅いし、私はまだ夏弥の両親に会ったことすらないけれど、結婚が決まっている。

私達の展開が珍しいんだよね、きっと。……その珍しさに感謝しているけれど……。

あー。なんだか夏弥に会いたくなったな。

「木内さん?花緒さん?……もしかして、彼氏の事思い出してます?」

突然、目の前をシュンペーの手が上下する。

「突然どっかに気持ち飛ばさないでください。ま、その顔の緩み具合からすると彼氏の事を思い出してたんでしょうけど」

「は?あ、……顔緩んでる?やだ……」

シュンペーの言葉に焦ってしまった私は、両手を頬に当てて顔を伏せた。

一気に体が熱くなって、どきどきするのがわかる。

夏弥の事を考えて、気持ち飛ばすなんて、私のイメージとは真逆で、それが照れ臭くてどうしようもない。

「俯くと、首筋の赤い花が満開ですよ。ほんと、幸せそうですねー」

「赤い花?……あー、もうっ」

朝から指摘され続けてる赤い花。

鏡で確認して、髪の毛を下ろせば何とか隠せると思ってたのに、シュンペーにまでからかわれて……。本当、先輩なのに、恥ずかしい。

「見なかった事にして。忘れて。追加でデザート何頼んでもいいから。今の私の事は忘れて」

一気にまとまりのない言葉でシュンペーを軽く睨むと、

「デザート、も魅力的なんですけど……。それよりも魅力的な人がこっちに来るんですけど?」

シュンペーが、笑いを堪えるように肩を震わせて、私の背後を指さす。

何だろうと、まだ恥ずかしさで真っ赤に違いない顔をゆっくりと後ろに向けると。

ちょうどお店に入ってきた弥生ちゃんと、その隣には長身の……。

「え?夏弥?」

弥生ちゃんに連れて来られたのか、興味深げに店内を見回す夏弥がいた。