週末の薬指


春山隼平。通称シュンペー。

入社二年目の彼が私のグループに配属されて以来、何かと可愛がっている弟のような存在。

同じ大学出身だという親近感もあるし、シュンペーの人懐こい性格が私の癒しとなっている。

私が快くランチを奢ると言ったにもかかわらず、シュンペーは複雑そうな顔をして

「奢ってもらえるなら、それはそれでお願いしますですけど。……えっと、ちょっと相談があるんです」

「相談?会社の外で仕事の話はしないよ。それ以外なら聞いてあげる」

「あ、それ以外です」

「そう。なら、聞いてあげる。なに?彼女が妊娠したとか?」

「……」

「え?嘘、ほんとに?」

単純に冗談でそう聞いたのに、シュンペーの顔は驚きで固まってしまった。

手にしていた書類を机の上にぱさりと落として、まっすぐに私を見つめるだけで、言葉も何も出ないように見える。

「あの、木内さん……すごく勘が良すぎで怖いです」

ははは、と乾いた笑い。シュンペーは私の冗談をあっけなく認めた。

彼女が妊娠ねえ。大学時代からの長い付き合いだと聞いているけれど、まだ就職してから浅いのに、父親になるにはちょっと早いかも。

「で、彼女の体調はどうなの?」

「え?」

私の言葉に戸惑うシュンペーは、少し慌てている。

「あ、あの、彼女は、大丈夫です。元気に仕事も続けています」

「そう。それが一番だね。彼女の事を一番に気遣わなきゃね」