週末の薬指

その日、瀬尾さんと連絡先を交換した。

『会社にかけていただいてもいいですが、携帯の方が確実ですので、できればこちらに連絡下さい』

携帯の番号と、メールアドレスをその場で書いてくれた名刺。

『普段はこの番号はお客様には教えないんですが、木内さんにはよくしていただいてますので、特別です。いつでもかけてきてください』

営業トークなのか本音なのか、よくわからない口調と笑顔を向けられても、うまく答えることができない。微妙に距離を取りながら、とりあえずその名刺を受取った。

第一、キッチンのリフォームについてどうするのかもまだはっきりと決めたわけじゃなくて、時間をかけて考えてみたい。
そんな私の揺れる想いを察してくれたのか、瀬尾さんは

『花緒さんが、最終的にどうしたいのかも含めて相談にのらせて下さいませんか?』

無理に押し付けるわけでもなく、私に考える余裕と時間も与えてくれた。
おばあちゃんが私の気持ちを汲んで、色々と考えてくれた事とはいえ、私にも覚悟が必要になってくる。
今勤務している会社をどうするか、とか本当に私にできるんだろうか、とか不安はいっぱいだ。

確かに現実になれば嬉しいけれど、それだけでは将来を明るいものにできるわけではないから。

結局、少し考えてから瀬尾さんに連絡する事にした。

瀬尾さんは、気を悪くするでもなく笑顔で、『連絡をお待ちしています』そう言ってくれた。

まるで、私からの電話を心から待っているかのように気持ちをこめてそう言ってくれるのは、営業魂なのかな。錯覚しちゃいそうだ。私を求めてくれてると、誤解しそう。
そんなわけないのに。