「本当に何もないんだね」


ぽつりと呟いた言葉も、蝉の鳴き声にかき消されたのか、彼女の反応はなかった。

僕達は汗を拭いながら、ただ歩き続けた。


杉の木に挟まれた長い坂を上り切ったところで、彼女は足を止めた。


「この森を抜けないと着かないんです」


彼女が指し示したのは森の奥へと続く砂利道だった。

車一台しか通れそうにないその道の奥に、彼女の家があるのだという。

他に頼るものがない僕は、言われるまま彼女の隣を歩き出し。


そして、激しい衝撃とともに意識を失った。


恐らくスタンガンを使われたのだろうと気付いたのは、それから随分後のことだ。



目が覚めた時には僕は首だけ残され、森の中に埋められていた。