昼を過ぎた陽の光はどこか柔らかく、頬を撫でるそよ風は心地良い。けれどそんなゆったりとした雰囲気を壊すものは、人々の殺し合う音。

建物の影に隠れ、何度も周囲を伺いながら、青年は廃れた街中を進んでいく。しばらくして、その廃墟ビルは目の前に現れた。

まだ昼過ぎだというのに、中は薄暗く、荒んだその姿に居心地の悪さを感じる。埃臭い階段を手で鼻を押さえながら、上がっていく。
足音がやけに大きく聞こえるほど、そこは静まり返っていた。

きっと〝生命(いのち)〟のない器だけの世界は、こんな感じなのだろう。
ふと彼は、そう思った。

立ち止まってしまえば、何の音もなく、空気の流れを肌で感じることもなく、たった一人、ぽつんと存在している。
それはあまりにも孤独で、哀れだろう。
心身共に何も感じることができず、時の流れすら、感じ取ることができないのだから。

そしてついに、青年の前に、錆びれた扉は姿を現した。

――早く、世界の〝中身〟と触れたい。
〝生命〟の素晴らしさを一度でも知ってしまった時、もう後ろを振り向こうとは、しないだろう。孤絶した心細さを感じると、わかっているから。

古びた音を立てながら、扉は開かれる。

「――……」

壮大に広がる空と、破滅的な街の姿。白銀の髪は靡く度に陽の光に反射し、美しい。