微笑みと共に、世界は眠る



「私は……」

言わなければいけない。背負い続けた、私の〝罪〟を。愚かな過ちを。
けれどそれを伝え、あなたに拒まれた時、私はその罪悪感と悲しみに、耐えることができるのだろうか。

唇が震える。胸騒ぎとはまた違う衝動に駆られ、心臓が早鐘を打つ。
これほどまでに、誰かに必要とされなくなる怖さに襲われるのは、初めてだった。

息をついた青年に、彼女は体をびくりと震わせ、思わず目を瞑る。刹那、怯えた少女は頬を優しく撫でられるのを感じる。

「ごめん」

全く予想していなかったその言葉に、彼女は目を見開ける。手套を外した彼の手は、温かかった。

「怯えさせるつもりは、なかったんだ」

いきなり声を上げたことを、彼は気にしていたのだと、少女は悟る。そしてそれは更に、彼女の心を締め付けた。

――違う。あなたは、何も悪くないのに。

「さ、行こう」

彼は微笑む。その笑みも、その声も、花を見に行った時とは違い、切なげだった。

あ、と小さく少女は声を漏らし、咄嗟に青年の腕に手を伸ばす。けれどそれは虚しく、空気を掴んだだけだった。
遠ざかっていく彼の後を慌てて追う。近すぎないように、遠すぎないように、二.三段ほど後ろで下りていく。青年の背を見つめ、少女は息詰る。