薄雲は晴れ、茜色に染まっている空が姿を現す。寂れた街中を、青年はただ呆然と見下ろしていた。
冷たい風が頬に当たる。後ろから聞こえてくる古びた音に、彼は振り返る。

「お待たせ」

白銀の髪を靡かせ、少女は歩み寄ってくる。一冊の古めかしい本を抱きかかえていた。

( 先に、あのビルの屋上へ行ってて )

座り込んだままの青年を見下ろして、彼女は言った。

( ……今度は、守るから )

どこか切なげな瞳で、彼を見つめた。

「これを」

少女の声に、青年は我に返る。手渡された本を、おもむろに開ける。

「これは……」

その古めかしい本にはページ毎に一枚の写真が載っていた。
汚染され、紺碧に染まったものとは全く違う、深く青い海の姿や、岩壁を勢いよく流れ落ちる水に掛かる、七色の橋。

見たことのない絶景に魅せられ、彼は何枚ものページを捲り、ひとつひとつ写真を眺めていく。
するとひとつだけ角が折られているページがあることに、青年は気付いた。

そこにはレンガ造りの建物ばかりがある、落ち着いた雰囲気の街並みが載っている。

「その写真は、この街よ」

「……え?」

思わず青年は壊れた廃墟ばかりの街を見下ろし、そして写真を凝視した。

この写真に写っている街が……この街?

あまりの姿の違いように、彼は目を疑う。