「………」

何も、言葉が出なかった。

俺が、偽物(コピー)? 本物には、なりきれない?

少女の重々しい口調が、冗談でないことを示す。けれどそれが本心であっても、受け入れることができなかった。
困惑した青年の顔を見て、彼女はふっと笑う。そして、静かに口を開いた。

「むかし話をしましょう。――この世界が創られる少し前の、むかし話を」

「この世界が……創られる前?」

「ええ。さっきも言ったように、この世界は偽物(コピー)。本物の世界は、別にあるわ」

数えることができないほど、甚だ多くの人間がそこでは生存していた。そして発達した技術のおかげで、彼らの街は、国は、栄えていた。

「増えていく人口に、発達し続ける技術。その技術は人々の生活を楽にさせる、人間にとっては便利なものだった」

だから彼らは喜んで使った。けれど人々を楽にさせるその数々の技術は、代償として〝世界〟を蝕んでいく。

「楽になればなるほど、代償は大きくなっていくのに、それでも彼ら人間は、〝今〟しかみなかったのよ」

未来のことはその未来を生きている者たちに任せてしまおう。誰もが、そう思っていた。

「ようやく彼らがその代償の重さに気付いた時には、もうすでに手遅れだった」

燦々(さんさん)たる陽の微笑(ほほえみ)は逃げ隠れる人々を嘲笑い、暗澹(あんたん)たる雲の涙は共に消えましょうと彼らを誘う。