青年の方に振り向いて、左手を拳銃の形にし、少女はこめかみへ人差し指の先を当てる。
「そしてこんな風に、あなたも自分の命を捨ててしまうわ」
バン、と言って、指先を上げる。
「なぜそう言い切れるんだ?」
「……だって〝あの子〟も、そうだったもの」
こんな歪んで行く世界なんて、存在する意味はないのだと泣き叫ぶ〝彼女〟。
こめかみに銃口を当て、〝彼女〟は言う。ごめんね、と。
そして拳銃の引き金は、引かれた。
「私のせいで誰かが死んでしまうのは、いけないことだから」
そんなことを言う少女に、悲しげな瞳に、青年は返す言葉が見つからなかった。
「私ね、最近よく思うの。〝私〟は、存在するべきではなかったのだろうか、ってね。そうすれば誰かの希望を膨らますことも、壊すことも、なかったのに」
怪訝な顔をする彼の姿に、ふっと彼女は笑う。
「あなたは私のことを変な子だと思っているでしょう? 意味の分からないことばかり言うから」
図星である青年は気まずそうに目を逸らした。
「でもそれでいいの。あなたは何も知らない方がいい。そして私のことも、早く忘れた方がいい」
その言葉に、彼は少女を見る。
「どうしてだ?」
尋ねても、それに彼女は答えようとはしなかった。
「おい、また教え――」
「あなたが異常者でないことを、私は願うわ」
「異常、者?」
白銀の髪を靡かせ、彼女は青年に近づいていく。そっと彼の胸元に手を添えた。
「異常者が私と関わって良いことなんて、何もないのだから」
トン、と胸元を押す。
ふらりと青年の視界が揺らぐと共に、靡く白銀の髪と空が目に入った。
次第に自分の意識が遠のいていくのを、感じる。
「だから、忘れて。他の人たちと同じように」
切なげな声が、最後に聞こえた。


