涙で潤う、青の掛かった翡翠色の瞳と、揺れる白銀の髪。
血で染まった小さな手に、愛おしく指を絡める。

――ああ、どうか泣かないで。

脳裏に響く、彼の声。

俺は本当に、君を守りたかっただけだから。

「……聞いてほしいことが、あるんだ」

君の体が傷つかなくて、良かった。庇うことができて、良かった。
だから、どうか自分を責めないで。

「君が……苦しむ必要は、ないよ」

だって俺は、自ら喜んで、銃弾を受け入れたのだから。

「俺は君の、味方だから」

たとえ君が世界に背を向けても、彼らが、君を責めたとしても、俺だけは、ずっと君を支えるから。

瞳に映る紫紺の空が、消えていく。闇が、自分を呑み込んでいく。

「     」

いつかまた、信じる〝時〟が訪れるまで、おやすみ。

「――……」

重い瞼を、ゆっくりと開ける。窓から入ってくるそよ風に、ページが捲れる音がした。

――まただ。また、同じ夢を見た。

目を擦り、青年は窓の向こうに広がる夕焼け空を眺める。

見知らぬ少女と、死んでいく自分。
死ぬというのに、何故か俺はそれを恐れずに、むしろ安堵している。
……本当に、何度見ても変な夢だ。

「またその本を見てたの、お兄ちゃん」

彼のもとに近寄りながら、その少年は言った。

「同じ写真ばかり見て、飽きないの?」

怪訝な顔をして、弟は兄を見る。

「何十枚もあるから、飽きないよ」

写真の載ったページを、青年はゆっくりと捲っていく。ふーん、と少年は呟いた。
ある写真のページになり、彼は手を止める。

「その写真に写ってる木、きれいだね」

立派に生えている大樹と、その先端を覆う、満開に咲いている淡い桃色の花びら。写真の右下には、〝千年桜〟と書かれている。

「ああ。俺も何回見ても、見る度にそう思う。今はもう存在しないとわかっているからか、余計美しく見えるんだ」

「え? もうないの?」

少年は驚いた顔をし、その千年桜が載っている写真を見る。

「四十年前ぐらいに、病気にかかったらしい。当時はまだその病原菌を殺菌できる薬がなくて、どうすることもできなかったんだ」

一度でいいから見てみたかった、と彼は言葉を零した。

穏やかな風が、二人の頬を撫でる。

「さてと、そろそろ行くとするか」

椅子から腰をあげ、青年は軽く腕を伸ばす。