( 俺もお兄ちゃんみたいに、街の人々を守りたいんだ )

強い眼差しの中に宿る、憧れの光。

「なあ、お前が思うほど、兵士はかっこいい存在じゃないんだよ」

だから、アイツには兵士になってほしくない。
きっと俺みたいに、本当は自分が何も喜ばれない存在だと知ってしまえば、アイツはそれに耐えられないだろう。

唇を噛み締め、青年は再び進み始める。
どこへ行こうと考えた訳でもなく、ただひたすら、寂れた風景の中を歩き続けた。

( あなたが羨ましいわ )

ふと少女の言葉が脳裏に響く。そこで彼はあることに気が付く。
崩壊した街中にある、一つの廃墟ビルを見上げた。無意識の内に、来てしまったのだ。

「俺は一体、何を求めているんだ」

変わった髪色を持ち、今では見ることのない格好をし、意味深なことを言う少女。
まるで希望を失ったかのような、どこか虚ろであるその翡翠色の瞳を、思い出す。

きっと彼女は、心身ともに疲れきったんだ。
だからあんなことを……世界が消えるべきか消えないべきかを、言ったりするに違いない。

現実逃避をするだけ、虚しくなるというのに。

荒んだ階段を上がり、錆(さび)びれた扉を開く。

まだ昼過ぎだ。あの少女はいないに決まってる。

胸の内で呟いたその言葉は、すぐに覆されることになる。

「……どうし、て」

寝転びながら空を見上げている少女は、その声にゆっくりと体を起こして振り返る。
陽の光に当たる白銀の髪が、きらきらしい。

「あなた、私を覚えているの?」

それは少し驚いている表情で、けれど悲しそうな表情でもあった。
一方青年はそんな彼女に気付く余裕がないほど焦りを感じているのか、荒々しく声を上げる。

「まだ明るいのに、地上に出るなんて……! 早く戻るんだ! 自殺行為だぞ!」

「私は死なない」

だから平気よ、と言って、顔を上げる。
風を感じながら、静かに流れ行く雲を眺める彼女は、一体何を思っているのだろうか。