( 私は死にたいと思った。この世界から、解放されたいと思った )

脳裏に響く、少女の悲しげな声。

( でも私の願いが叶うことは決してないの )

彼女は嘆いた。歪んでゆく世界を目にして。そして、世界から解放されることがないことに。
けれど今、その彼女は暗闇の先にある光に、手を伸ばそうとしている。

「……これは我儘ね。でも、もしもあなたが……」

そこから先は、声に出すことができなかった。言ってしまえば、そうなってしまいそうに思ったから。

少しの間少女は黙り込み、ねえ、とおもむろに口を開ける。

「――もし、本物の世界で暮らす彼らが、この世界が歪んでしまったことに気付き、全て元に戻したら……、新しくこの世界が生まれ変わったら、またあなたに、出会えるかしら」

絡まる指に、力が入る。

「ああ、きっと出会えるさ。信じよう。出会えることを」

信じなければ、何も始まらないのだから。

「……そうね、信じましょう。仮の話にすぎないけれど、それでも私はそうなった時、また出会いたい。あなたのことを、覚えておきたい」

私は忘れたくない。あなたの存在を。自分の犯した過ちを。
かつての輝かしい日々の記憶は消されてしまってもかまわない。けれどその二つだけは、覚えていたい。