紺碧が紫紺の空を覆い、青白い月は何にも心乱されることなく、穏やかに昇っていく。
独特的な明るさに包まれていく寂寥(せきりょう)たる街中。寄り添いあう、二つの黒い影。

花壇のすぐ傍、崩れ落ちた廃家の壁を背に預け、青年と少女はそこにいた。
目を閉じ、彼女は彼の肩に頭を預ける。その姿を、青年は微笑ましく見つめた。

ふと彼は花壇に目をやる。

「……ん?」

そして、あることに気付いた。
その声に、少女は薄く目を開ける。彼を見ると、驚いている様子だ。

「咲き始めてる」

その言葉に、彼女もすぐに花壇に視線を移す。

「あ……」

思わず、声を漏らした。汚(けが)れのない白い花弁が、開こうとしている。甘い香りがほのかに漂い始めた。
しばらく二人は一輪の花を見つめ続ける。気付けば香りも強くなっていた。

「キレイ」

少女はまじまじと花を見つめる。虚ろな瞳が、輝いているような気がした。

「よかった。咲いてくれて」

そう言った青年に、彼女は笑みを浮かべながら静かに頷く。花を見つめながら、再び少女は彼の肩に頭を預けた。

「この花の名前、知ってる?」

青年はおもむろに首を横に振る。

「母が花好きで、俺もいろいろな花の名を教えてもらったけれど、この花の名はでてこなかった。君は、知ってるのか?」

ええ、と彼女は言う。