「……千年桜を救おうと必死に薬を研究している人に、これを渡したの。殺菌剤である液体の中に浸して使えば、絶大な効果がでるから、と言って」

スピラは濃度の高いエネルギーの固まり。それを何かの物に使った時、その物の威力が何倍にも上がると、彼女は知っていた。

「喜ばしいことに千年桜は回復していき、元の美しい姿に戻ったわ。そして薬の開発者たちは私の元へやって来て、こう言ったの」

この結晶があれば、〝絶滅の危機に瀕している植物や動物を救うことができるかもしれない〟と。

「私は結晶をそのまま彼らに渡した。少しでもこの世界の力になりたい、世界の〝中身〟を救いたい、と強く感じたから。……けれどそれが、戦争が起こる引き金となってしまった」

少女はそこで黙り込む。依然手は握られており、彼女は安堵の胸を撫で下ろす。

「……政府はその結晶の持つ力を知り、開発者たちからそれを奪い取ってしまった。そして、悲劇は始まったの」

結晶が政府の手に渡ったことなど、少女は知らなかった。あの映像を見るまでは。