「呆気に取られてるみたいね? 若槻にとってはそのくらい大切なものなのよ」
 湊先生にベッドへ移動するように促される。
 呆気に取られているというか……。
 今朝、あの鍵を見てからずっと何かが引っかかっていて、どうもすっきりしないというほうが正しい。
 そして、ペンダントトップになった鍵。それを大切に握りしめる手――。
 私、やっぱり何かを知っている気がするのだけど……。でも、何も知らない気もする。
 私が知っているものは、何? 私が知らないものは、何?
「翠葉?」
「……先生、あの鍵は唯兄の私物で、私が唯兄に会う前に見ている可能性なんてないですよね?」
「……ないと思うけど。どうかしたの?」
「……いえ、なんとなく気になっただけなんです」
「そう?」
「……はい」
「じゃ、とりあえずこの一時間は休むことね」
 そう言うと、カーテンを閉めて出ていった。
 ……やっぱり私の気のせいなのだろうか。