俺は再度咽そうになったのを必死で堪える。
 秋兄も引きつり笑いを貼り付け、
「知ってるよ」
 と、短く答えた。
 翠は興味津々で、「どんな人ですか?」とさらに尋ねる。
 秋兄は少し考えてから、
「……そうだなぁ、すごくかわいくて、半端なく鈍い子だね」
 その返答を聞くと、翠は何を思ったのか、
「先輩、がんばってくださいね」
 などと言ってくる。
 必然と、状況を知っている俺と秋兄だけが固まる。
 俺は一応がんばるけど、がんばられると困るのは秋兄と翠だと思うけど……?
 露ほどにも察することができない翠は、
「……どうしたんですか?」
 それ以上は耐えられる気がせず、俺はすかさず立ち上がり、
「俺、もう帰るから」
 と、返事も何も聞かずに部屋を出た。
 ドアを閉めると胸を撫で下ろす。
 翠と話していてこんなに心臓に悪い思いをしたのはこれが初めてだった。
「先が思いやられる……」
 俺、寿命が縮むかも――。