「湊先生……?」
 湊先生は医療用のステンレストレイを手に持ち、
「……翠葉が、翠葉が蒼樹以外の男と普通に話してる」
 まるで何か恐ろしい光景でも見たかのような驚きぶりだ。
「こんなの普通でしょ」
 若槻さんが振り返って口にする。
 それからすると、湊先生とは初対面ではなさそうだ。
「翠葉の人見知りの激しさ、あんた知らないの? 蒼樹以外でまともに話せる男なんて海斗と司と秋斗。クラスメイトの男子ひとりくらいなものよ!?」
 と、若槻さんの顔をまじまじと見る。
「翠葉、若槻の変な手管に引っかかったとか言わないわよね?」
「……えと、今日から私にはしばらく二人目の兄がいるみたいです」
 先生は唖然とした顔で、若槻さんを指差す。
「これが二人目?」
 コクリと頷く。
「これが、ねぇ……。あんた知ってんの? この子、かなり手ぇかかるわよ?」
「あぁ、人の手使ってご飯食べるとか?」
 と、若槻さんはスープカップを指差した。