着替えてきた秋斗さんは、洗いざらしの白いシャツにベージュのチノパンだった。
 その上に黒いVネックのカーディガンを着ている。
「カーディガンは普段着ていないけど、翠葉ちゃんと一緒にいるときはたいていがこの服装。中のシャツがその日によって変わるくらい」
 やっぱり――そういうことを意識して行動してくれていたのだ。
「秋斗さんは思い出してほしいんですね」
「……すごく悩んだよ。このまま思い出さないでくれたほうが俺にとっては都合がいいじゃないか、とか。翠葉ちゃんが苦しまなくて済むんじゃないか、とか……。でも、やっぱり俺にとっては宝物のような時間だったんだ。それらすべてがなかったことになるのは悲しい。それに翠葉ちゃんが言った『経験値』という言葉。それを聞いたら、やっぱり取り戻したほうがいいんだろうな、と思えた」