「翠葉ちゃん、ちょっと司を借りるね」
 静さんは俺にではなく翠に断りを入れた。
 即ち、ここではできない話――。
 静さんはエレベーターホールの裏へと歩を進める。
 その背を追いかけ、ガラス張りの一室の前へたどり着くと、
「秋斗がいなくなった」
「は……?」
「午後三時半過ぎから消息がつかめない」
 ちょっと待て。午後三時半過ぎって――。
 咄嗟に自分の携帯を取り出し履歴を見る。と、俺が秋兄に連絡した直後だった。
 二位入賞を伝え礼を言った。
 秋兄は、「殊勝なこと言うなよ、気味が悪い」と笑っていた。
 とくに、何か様子がおかしいわけではなかった。
 それがどうして……?