あと少し――あと、もう一息。
「……壁紙変えてやろうか? それとも空調止める? この季節かなり暑いと思うけど。熱中症になっていいならそうする。たまになら、俺が屋外に連れ出すけど?」
 一瞬、翠は戸惑った表情を見せた。
「別に無理なことじゃない。それで病院へ行ってもらえるならお安いご用」
 さも、なんてことないように話す。
「先輩、本当にムカつく……」
 これは本音なのだろう。
「……嫌い……嫌い、大嫌いっっっ」
 正直、正面切って本音でこの言葉を言われるのはきつかった。
 けれど、そんなことは悟らせない。
「翠、理系なのは認める。でも、悪口雑言の語彙が少なすぎ。そこの国語辞書取ってやろうか?」
 棚に置かれていた辞書を指し示すと、
「……嫌い嫌い嫌いっ。ムカつく、出てってっ。入ってこないでよっ、部屋にも、心にも――」
 手にした布団をぎゅっと握りしめ、最後は搾り出すように声にした。