面と向かって渡せない……? お菓子ならもらったけど……。
 疑問に思いながら自室へ向かう。
 部屋のドアを開けると、デスクの上に小さな手提げ袋が置いてあった。
 引き寄せられるように歩みを進め、手提げ袋に手をかける。と――黒っぽいものが入っていた。
 手提げ袋から取り出せば、それがマフラーであることを理解する。
「……手編み?」
 メッセージカードを開くと、「いつもありがとう。携帯ホルダーのストラップ、とても重宝しています。マフラーはそのお礼です」と書かれていた。
 読んで笑みが漏れる。
 間違いなく、翠はバレンタインの意味をきちんと理解していない。
 あまりにも翠らしくて笑いを堪えることができなかった。
 ほかの人間と同等に扱われてるとかそれ以前の問題。
「さすが翠だ……」
 くつくつと笑いながらマフラーを頬に引き寄せる。
 毛百パーセントのそれはふかふかと弾力があり、肌に心地よく感じた。