「ほら、今日も翠葉んとこ行くんでしょ? 翠葉に会って機嫌直してきなよ」
「あっ! そうだよ! 翠葉ちゃんに会ってくれば機嫌直るんじゃん?」
 嵐と優太の言葉に、ケンが噂話を持ち出した。
「なんかさ、聞いた話なんだけど、姫、クラスメイト全員にお菓子配ったって」
「「えっ?」」
 嵐と優太は一瞬にして押し黙る。
「翠葉、バレンタインってイベントがどんなものか知ってるのかな?」
「……翠葉ちゃんだろ? かなり怪しいよな……」
「怪しいなんてもんじゃないよ。何かイベントの趣旨間違えてる気がするんだけど……」
 額に冷や汗をかきながらケンが主張する。
「ま、何はともあれ、クラスメイトにあげていて司にあげないなんてことはないだろっ!?」
 その言葉が妙に引っかかったものの、俺は弁当を持って翠のクラスへ行くことにした。
「機嫌、直してこいよっ」
 と言ったのはケン。
「グッドラック」
 と言ったのは優太。
「元気だして」
 と言ったのは嵐。
 それらに、無言の視線を返し教室をあとにした。