(何、アレ)

(やだー。バッチィ)

(浮浪者?)

(女かな)

(磨けば売れるかもしんねえぞ。ギャハハハ!)



 雨音に混じって、通行人の声が聞こえてくる。

 彼女は、感情を持つこともなく、それらをまるで雨に流すように聞き流していた。

 元紐店のシャッターの上部には一応でっぱりがあり、少しは雨を遮ってくれてはいるが、ほとんどその意味もなく、彼女の身を覆う毛布やらタオルやらおしぼりやらはびしょ濡れだった。

 ここには、昨日の夜中に来たばかりだったが、ずっと振り続けていた雨のせいで、彼女の体温はすっかり下がりきっていた。

 意識、というものがほとんどなくなってきているのだろう。
 ずっと同じ姿勢でピクリとも動かない。

 商店街の住人達は、そんな彼女の存在に気づいているのか、気づいていないふりをしているのか、とにかく何をするわけでもなく、ただ店の奥で来るかどうかすらわからない客を待っている。