翌朝――


 毬はまだ暗いうちに目を覚ました。
 目の前には、龍星がいた。

 最近、寝具を並べて眠るのが定番化していたので、思わぬ至近距離に毬は頬を朱に染め、暗闇に目が慣れるまでじっと、その陶器のような綺麗な顔に見入っていた。

 それから、龍星を起こさぬようそっと部屋を出る。

 夏と云えども早朝の風はひんやりと心地好い。
 毬は徐々に明るくなる庭をぼうと眺める。

「随分早起きだね」

 後ろから抱き締められて、初めて龍星が傍に来たことに気付いた。

「龍も、早起きね」

「言っただろう?
 俺は毬が傍に居ないと眠れないって」

 艶やかな甘い声で囁かれ、毬はくすりと笑い、腕の中で向きを変えその胸に顔を埋めた。

「では、今夜からは眠れないわね。可愛そう」

 その、何かを諦めたようなきっぱりしたものの言い方に、龍星は顔を曇らせる。

「そんなことない。
 人目を誤魔化すために毬が必要だと言うなら、夜はそこに居なくていい」

「あら、駄目よ。
 毎晩そんなことをしていたら目立ってしまうわ。
 影武者はひっそりしてないと」

 毬は決意を決めているのか、低い声で言うと顔を上げた。
 小動物を思わせる黒い瞳が、真っ直ぐに龍星を見据える。

 身代わりになるならなるで、徹底的にやりこなす――

 そういう決意を秘めた眼差しだ。