コーン
コーン

 どこか、遠くからキツネの声がする。

 毬は身体を起こした。隣に龍星はいない。日は既に高く昇っていた。

 頭にはかんざしがついていた。龍星にあげた、あのかんざしだ。

 少し考えて、毬はそれが似合う女性物の着物を身につけた。
 もちろん、屋敷の奥に常駐する姫君が纏うような重苦しいそれではなく、軽やかなものだ。


「毬さま、おはようございます」

 華が丁寧に挨拶をする。

「おはよう、華さん。すっかり寝坊してしまったわ。龍星は?」

「御所から呼び出しがありまして、渋々お出かけになりました」

「そう。
 私も少し出かけてくるね」

 毬は華の制止を振り切って、安倍邸を後にした。