卓上彼氏




放課後、電車に揺られながら私は漫画を立ち読みしていた。




電車の中は格好の読書スペースだ。





漫画の中のキュンとするようなセリフににやけそうになる。






ここ十数日、ヨクが現れてバタバタしていてろくに読書時間を確保できていなかった。



読書時間、というより二次元に費やす時間を確保できていなかった。




アニメも録画したまま観ていないものがたまってるし、ここ最近漫画制作はヨクに任せてたからイラストも描いてない。




だからこの漫画の時間はいつにも増して爽快に感じられた。





ヨクがいなくったって、全然楽しいんだから!



私はヨクのいない時間を精一杯楽しもうと思った。


いや、『精一杯』というと無理をして頑張っているように聞こえるからやめよう、私はヨクのいない時間を存分に楽しもうと思った。







「よぅ花園!」




そんな私の至福の時間は一気に掻き消された。



この声……。




振り返る暇もなく、藤堂くんが隣の吊り革を掴んできた。





電車が揺れて肩と肩がぶつかる。






………ち、近いし。





私は極力藤堂くんを見ないように外の景色を眺めた。





「藤堂くん登下校この電車だったっけ」





車窓に視線を投げたままぶっきらぼうに質問する。






「いや、いつもはチャリ。でも今日は叔母さんちに用あんだ。花園最寄りどこ?」





「岬台」



「えっまじ?!俺も今日そこで降りるんだわ」




笑顔の藤堂くんとは対照的に私は沈んでいた。






あーっ、最後まで藤堂くんと一緒かぁーっ。



嫌だなーっ。




あっ、てか藤堂くんの方がむしろ私の隣でしかもこんな近く嫌なんじゃない?


キモいヲタクの隣なんてね……





そこまで考えた時、私は自分が手に持っていた物にはっとした。




すかさず一瞬でがばっとスクバの中に漫画を隠す。







「……見えてました?」




おそるおそる藤堂くんを見上げる。







「見えてました」





藤堂くんは何が面白いのか、口に手をやってクスクスと笑った。






————見られた。




顔がカーッと熱くなるのを感じたその時、電車は最寄り駅へ着いた。




扉が開いた瞬間、一気に私はそこへ駆け出した。



顔が赤くなっていることを隠したくて。







と、ふいにホームへ降りたところで後ろから力強く腕を掴まれた。






プシューッと扉の閉まる音が響いた。





振り返ると、私の腕を掴んだまま真剣な表情をした藤堂くんがいた。









「花園さ…………なんか勘違いしてない?」