「ねぇみかみぃ~っ、キスてよ~っ」
私がお風呂からあがってからヨクはずっとこの調子だ。
甘えん坊みたいな猫なで声を出す。
半乾きのロングヘアーをくしでとかしながら私は窓の外へ目をやった。
高層マンションの上層部に位置するこの部屋からは、綺麗な夜景が見渡せる。
私はロココ調のソファに深く腰掛けていた。
ソファの真正面にある大型液晶テレビからヨクが騒いでいる。
「さっきはお腹の音に邪魔されちゃったからさぁーっ、続きしてよーっ」
子供かアンタは!!
そう思いつつもヨクのような美青年に上目遣いされるとつい承諾してしまいそうになる。
「だ、ダメもうしない」
私は精一杯の拒絶を示した。
「なんで?!さっきはしてくれようとしたじゃん」
「あ、あれは変な空気に流されてやっちゃいそうになっただけだから!!つき合って間も無いのにキスとか早いし!」
—————それに、ヨクは彼氏の義務としてキスしてくれようとしたんでしょ?
胸の奥がズキンとした。
さっきの私は、
本当に心から、してもいいと思ってヨクに近づいていっていた。
それだけに、ヨクはきっと仕事としてしようとしていたんじゃないかと思うと悔しくって仕方なかった。
自分だけ本気になってるみたいで、馬鹿みたいだと思った。
私がヨクとつき合ってるのは、私がリアルの男子に恋できるまでの穴埋めって約束だったからなのに。
目的見失っちゃ、ダメじゃん。
ヨクは二次元なんだから。本気で恋するような相手じゃないんだから。


