同時に香る、女物の香水の匂い。 甘い甘い、バニラの匂い。 思わず、ゆづの手を払いのけた。 『あ…ごめん』 「杏璃? どうしたの?」 『おかえり…別に、寝ぼけちゃっただけ。ごめんね。』 「………」 睡魔なんていつの間にかどこかへ行った。 …ゆづの顔が見れない。 お願いだから、今だけは近付かないで。 香水の匂いが移るくらい、その女の子と近くにいたの? こんなことくらいで、嫉妬なんかしたくないのに、黒い感情が消えない。 もう、嫌だ。