カズ君は下を向いて黙っている。

小刻みに肩を震わせている。

残念だけど、それは出来ない。多分カズ君も分かっていたと思う。

「私が1番悔しいのは…」

ゆっくりと呼吸をしながらリョウちゃんが話し始めた。

「私が1番悔しいのは、タクとあなたのこれからが見れない事なの」

続ける。

「きっと素晴らしい人生が待ってる。私はそれを見る楽しみを奪われてしまう。それが悔しいの」

そして、伝える。

「そんな私があなたの将来を一方的に奪えると思う?」

カズ君は声をあげて泣いていた。不思議な光景だ。

「でも。」

リョウちゃんはカズ君に向いて笑いかけた。

「うれしい…。」

白い腕がスッと伸びてカズ君の頬に触れた。

思えば初めて見た。

カズ君がリョウちゃんに甘えているところを。