水色べんとう

「ねえ……お母さん?」

「なあに、さくら」

「私ね……全部、思いだしたの。当時小学生だった私に合わせて、お絵かきやままごとに付き合って遊んでくれて、眠くなったら沿い寝してくれて、そして、知らない男の人と楽しげに話すお母さんの姿を見て、不安だった私を、そっと励まして、抱きしめてくれた、初恋のお兄ちゃんのことを」

「そう」

「だからね、私の初恋は、いまだに続いてるの」

「それは素敵じゃない。それで、だったらどうするの?」

「あのね……」
 
私はぼろぼろと涙をこぼしていた。

「とっても……お弁当を作るのがうまい人で、だから……また、食べたいなあ」

「そうしなさい。ちょうど、お昼時だしね」

「うん……お母さん、あのね」

「なに?」

「また……戻ってきてね?あの家に……お母さんがいないと、寂しいよ」

「もちろん。じゃあ、お母さんは、行ってきます」
 
そう言って薄く笑い、立ち上がる母親の背中が見えなくなるまで、私はずっと、眺めていた。

――よし。
今度は私の番だ。
私は、夏の日差しの下を、全力で走りだしていた。