彼女たちを横目に建物の中へ入ると、下駄箱の中にキチンとそろえられた靴が四十足以上並んでいた。ふとコンクリートでできた三和土を見ると、そこにも靴が十足以上並んでいた。
(ほかにも見学の人が来ているんだ!)
突然、パァーン!と何かを壁にたたきつけるような音がした。つづいて『よし!』の声も上がった。
 音と声のした右斜め前を見ると、肘までの丈で白筒袖の弓道衣を身につけ、紺色の袴と白足袋をはいた六人の男女が矢を射っていた。全員左手に自分の身長よりはるかに長い弓を持ち、事もなく弦を引いている。その後ろ姿はりりしく、真帆と美咲はしばしの間見惚れた。
 入り口の側で座っていた小柄でポニーテールをした女子生徒が二人に気づき、近づいてきた。彼女は「二年生の小島といいます」と小声で話すと、三和土の上に靴を脱ぎ中へ入るよう指示した。中に入ると、入り口すぐ側の壁に立って並んでいる、十人の生徒に合流するよう促された。
 よく見れば中にいる人は誰も喋っていない。沈黙が部の掟らしい。
 中は縦に長い二十畳ほどの広さが板張りになり、弓を射っている先輩たちの足元から二メートルほど先は屋外だった。大中小、白地に三重の墨で塗られた円形の的ははるかかなた。射場から的までの距離と幅は、一クラスの学生が余裕でレクリエーションできそうなほど広大だ。
 その的へ向かって先輩たちはどんどん矢を放ち当てて行く。的を置いている盛り土に刺さっている矢はほとんどない。当たるたび他の先輩たちは『よし!』と声を上げる。近くで見るととても迫力があった。
(すごーい!)
真帆は深い感動を覚えた。
 ただ同時に、全国トップレベルの実力に恐れをなした。
(私みたいな初心者がこんなふうになれるのかな?)
射場内を見渡せば、矢を射る先輩たちの後ろで控えている生徒が大勢いた。全員白い弓道衣を着て紺色の袴を履いているので見分けがつかないが、二、三年生両方いるだろう。
(今、矢を射っている人は三年生でレギュラーか、実力のある二年生なのかな?座っている人は二軍、三軍の人?だって、こんなに大勢の人が試合に出れないよね?弓道はでれる?もし少しの人しか出れなかったら、私みたいな初心者は三年間応援団やって終わりだよ。そんなのイヤだ!)