しかし彼女はこの光景に惚けていて、僕の言葉が耳に入っているのか疑わしい。


「……聞いてる?」
「…わぁ~、わぁ…」

「……聞いてない、ね」

僕にとっては当たり前の花畑だけれど、人工的なオレンジ色のガス灯の光しか知らない彼女にとっては、信じられない光景だろう。

七色に光る花畑で、
尻の青い羽虫たちが視界をチラチラ飛ぶと、やはりコンは嬉しそうに追い掛ける。

お互いにじゃれ合っている、
遊び友達なのだ。


「…どうしよう、夢の中にいるみたい…。ガス灯も無いのに、こんなに沢山の光…」

子供が初めて24色の色鉛筆セットを貰って、箱を開けて歓声を上げる。

『この世に、こんなに沢山の色彩があるなんて!』
今まさに、そんな感じだ。


「ユリさん、あっちを見て」

僕は花畑の向こうを指差した。
人工的な光がチラチラと揺れる、妖精たちの棲む僕の故郷。


「……ぅわぁ!!」

こちらに棲む人々は、沢山の自然からの色彩を知っているから、人工的な灯りも色それぞれ。

オレンジ色も中には在るけれど、それ1色に留まる訳もない。


「――宝石箱みたい…」

彼女は、暗い紺色の空に映える里の姿を見て、そんな例えをしていた。