意地の悪い瞳。
それは嫌な予感。

愛犬はちらちらと、
向こうのベンチに座る「あの子」の様子を伺っていた。


馴染みの広場に、
馴染みのある顔触れ。

僕は仕事の中休みになると、決まってこのベンチで食事をとり、残りの時間は読書に費やしていた。


すぐ近くに、レンガの道や噴水で整備された大きな公園があるものだから、大半の人はそっちに流れる。

白いベンチと緑豊かが売りなだけの殺風景なこの広場には、いつでも穏やかな時間が流れていた。


『……つまんねぇな』

僕の愛犬は、その穏やかさに飽き飽きしている様で、そわそわと楽しみを探しているのだ。


『…んん~…、やっぱ話し掛けようぜっ!?』

「……だから、嫌だってば」

愛犬は僕の横で、じっと遠く向かいのベンチに座る、ガス灯のオレンジ色に照らされた彼女に視線を送っていた。


彼女が僕たちと同じ時間に決まって居ると、そう認識したのはつい先日の事。

やはり穏やかさを求める読書家の様で、僕と同様に決まって本を読んでいる。

先日の風が強い日に、
彼女の「しおり」が足下に飛んできた。

拾った僕に、
「すみません」と、
交わした言葉はそれだけだ。