サワサワと風に吹かれ、
見えない相手と会話しながら、森を奥へと進む僕。

彼女は未だに「信じられない」という表情で、口を開けたまま僕に手を引かれていた。


サァ…
『…お嬢さん、怖がらんでいいよ?わしゃ何もせん。わしら森は何もせんよ…』

精霊の彼らの声は、
彼女の耳にも聞こえるのだ。


「――行こうっ!!走るよ!!」

「……先生!?」

驚く彼女を早く声の主に逢わせてあげたくて、僕はコンの様に駆け出した。

手を繋いだまま、
まるで子供の様に…。


緑色の光の粒子を、
湿った風たちが踊らせる。

虫たちが尻を青く光らせて、
僕たちを歓迎して視界に飛び交う。

風たちが走る僕らと一緒に、
楽しそうに併走する。


「…あぁ、帰ってきた」


…ザワザワ…
『…お帰りなさい』
サァ…
『おかえり、ミハル…』

そんな樹の精霊たちの声は、
森を奥に進む度に増えていく。


「――…ただいま」

彼女は、もう…
すでに容量オーバーかもしれない。

時折、
僕は顔だけを振り向かせ、
彼女の呆然とする、まるで夢を見ているかの表情を楽しんでいた。