1・白いベンチと拾った本



『…なぁ、…あの子、また1人で居るぜ?また声かけないのかっ?』

「………」

読みふけっていた書籍から視線をずらすと、隣に「ちょこん」と座る愛犬が無邪気に僕を見上げていた。


『1人でいる同士、友達になっちゃえばいいじゃぁん!』

「…………」

ハッハッと興奮気味に息を漏らし、きらきらとした瞳で未だ僕を見上げていた。

何か新しい展開を期待する、
好奇心いっぱいの瞳。

溜め息を漏らすと、
僕は手にした書籍に視線を戻した。


『……なぁ。なぁ、って!無視すんなよなっ!』

「………うるさいよ」

何度も何度も、
小さな肉球で書籍を持つ腕をつつかれると、流石の僕も少し苛立ち始める。


『声!声かけようぜっ?』

「………嫌だ」

『何でよぉ!絶対に楽しいって。俺だけじゃなくって、お前も楽しいって!』

「……嫌だ、うるさいな」

只でさえ、
見通しの利く、人もまばらな静かな広場だ。
その一角にある白いベンチ。

犬と話す変人。
周りの目にそう映りたくはないから、僕はなるべく声を落として拒否を繰り返していた。

それを、
たちの悪い愛犬は知っている。


『――…ふぅん?』