「…先生、コンちゃん。2人にしか分からない会話しないで下さい。寂しいです、私」
「『…すいません」』
そう言われても、
どうしようもないだろう。
彼女には、どうしたって「ワン」としか聞こえないのだから。
細い砂利道。
周囲は静寂と背の高い深い緑に包まれて、荷物から出した2つの赤色のランプに火を灯す。
気泡の混じった、
透明感ある赤色の硝子。
中で灯る火は、
周囲の暗闇に幻想的とも言える模様を映し出していた。
「…はい、ユリさん」
「――…綺麗なランプ…」
1つを彼女に手渡すと、
彼女からは感嘆の溜め息が漏れる。
それにニヤリと笑う僕が赤色の光で映し出されると、彼女は不機嫌そうに表情を作り直した。
「…騙されません。こんなランプ1つで、どうやって樹海を越えるんですかっ!!」
「……心配性だね」
ふぅ。
僕は肩をすくめると、
あえては何も答えずに先へ進もうとした。
真っ黒な大きな影が、
視界いっぱいに広がっている。
その正体は木々の集合体。
これから樹海に足を踏み入れるのだ。
「…私、先生に夢見てました。物腰も柔らかいし、穏やかで、読書好き。良い人だと思ってたのに」