「…え?終着駅は、確か…」

ユリさんの不安そうな表情。
勿論、彼女は行き着いた事は無いだろう。


「…駅の名前は『樹海前』だね?僕たちは世界の中心に在る、人の立ち入れないとされる広い樹海に向かってる。」

「……入れるんですか?」

ゴクリと息をのむ音。
不安と期待が入り混じった、そんな表情をしていた。


「…課外授業は、樹海の中。君は『深い森』の内部に入るんだ。」

「でも先生。迷って出て来れないって…」

ふふ、と僕は笑った。


「僕の故郷は、深い森の中心。大丈夫、有給休暇の身だからね。次の大学の講義には、ちゃんと帰って来るよ?」

「……ぇ?え?故郷?」

きっと彼女は疑問だらけだ。

立ち入れない樹海の中に、人が住む街が存在していたのか。


「…人間は、限られた人しか入れないよ。樹海の中心には、世界史Yの起源がある…」

「……妖精史?…故郷?え?先生って一体…」


僕は学園長に誘われて、
大学で世界史Yを教える為に「森の外」へ出た。

学園長は僕の祖父の古い友人で、大学で僕の生い立ちを知っている唯一の人だ。

あえては生徒たちには言ってはいないけれど、講義中に薄々感づいている生徒も居るかもしれないな。