そのロウソクを彼女たちの元へ持ち帰ると、歓喜と安堵の声が上がった。

ガス灯に頼る街に住む彼女たちは、
どうも必要以上に暗がりを怖がる。

幾つものロウソクに分け与え、暗かったカフェテラスにもランプが揺れ始めた。


「有り難う、先生」
「いえいえ」

『なによっ!偉いの俺様なのにっ』

コンだけが不服そうだった。


コンは普通の犬じゃない。
口から火を吹く。

それは勿論、
普段から秘密にしている事で、
何かとコンは僕に不満を持っている。


「…仕方ないでしょ?特に、あの子たちは僕の担当生徒じゃなかったし。」

『そだけどっ』

彼女たちから距離をとると、
僕は小さな声でコンをなだめていた。


「見世物になってしまうよ?」

『俺様はヒーローになれるなら、それもイイ』

「………バカ」
『――むぅっ!!』


「…母さんと約束したろ?母さんが泣くよ?」

ピタリと不満の声が止んだ。
「母さん」の名を出す事、
それがコンへの僕の切り札だった。


『…仕方ねぇからジョーホーしてやるよ』

「――譲歩、ね?」
『…むぅ』

不満の声は止んでも、
結局はいつも何発かの可愛らしい足蹴が、僕の胸元にお見舞いされる。

それも普段からの事だった。