僕が手を伸ばすより前に、
コンがクンクンと匂いを嗅ぐと、『うんうん』と彼女の物だと認識していた。


「…届けるよ、有り難う」

布袋を拾い上げ、
僕がそう振り向くと、
もうすでに去った後で、猫の姿は何処にも無かった。


「おやおや…」

『…シンシュツキバツだな』

「神出鬼没、ね?」

『……ソレだなっ!?』

布袋を自分の荷物にしっかりと忍ばせると、彼女への心配ばかりが頭を過ぎる。

彼女は次の講義にちゃんと間に合っただろうか。
引き留めて悪い事をしたなぁ。


『ホントに慌てん坊さんなのねっ!!あの子』

「コンが話し掛けるから」

『――あ!!俺様のせいにしたっ!?ヒドくない!?何ソレっ』

「ははは…」

僕の歩幅に一生懸命ついて来ようと、足をせかせか動かせながら、それでも僕を見上げて吠えている。


「ちゃんと前を見ないと……転ぶよ?」

『――はっ、俺様がそんなブザマな……っぴぎゃ。』

「あぁあ…」

『――…いだぁいぃ~!!抱っこぉーっ!!』

動物の言葉を理解出来る僕も珍しいだろうが、道端で転ぶ犬も相当に珍しいと思う。


僕の胸に抱かれたコンは、
『楽チン楽チン』と満足げに鳴いていた。