「両方」

そう言うと、早歩きで映画館の方に歩きだした。

「えっ、何見るの??」

「……」

って、無視ですか!!

仕方なく引きづられるようにして連れて行かれ、チケット売り場で発覚した事実。

「これの一番早い回で」

聡史が指差した先には……。

!!!!!!!

「これ……見るの?」

「ああ」

最近話題になってる、見た人が怖すぎて失神してしまうホラーってやつ。

CMも、映画館で見て叫んでる方を映して、怖さをアピールしてる。

「……他のにしない?」

「買っちゃったもん」

「おねーさん!!これ…モゴモゴ」

「すみません、何でもないで~す」

メッチャ笑顔で話す聡史。

デジャブ?!

さっきと同じ口を押さえられたまま、横に引っ張られていく。

「んごごい!!」

「あぁ?」

思い切り聡史の手を払いのける。

新鮮な空気が一気に入ってきて、やっと呼吸ができた。

「怖いの……ムリ」

なんか悔しくて、語尾が消えそうなくらい小声になってしまう。

「えっ、な~に?」

こ…こいつ!!

絶対わかってて言ってるし。

ドSなんですけど!!

「何でもない」

そういう私の顔を、笑顔で覗きこむ。

「柚子……まさか、怖いの?」

って、怖いに決まってるでしょうが!!

でも、悔しいから言わないけど。

「べ…別に」

「良かった。じゃあ、中に入ろうか」

そう言われ、肩を組まれたまま映画館へ入って行った。

これじゃ、逃げれないじゃん!!!