意味がわからなかった。相手は悪魔で、私は悪魔狩り屋なのだ。

敵である私を抱きしめる。そんな行為をした彼のことを理解できなかった。私は抵抗しようと身をよじる。瞬間、

「綾芽」

安久李さんの甘くそれでいて低くてかすれた声が耳元で聞こえた。ぞくりと、恐怖ではない震えが起きる。
抵抗しようとも、力が入らない。魔法にかけられたかのようになにもできないのだ。

私はこの状態をどうやって打破しようか考え始めた。しかし、そんなことも考えられなかった。彼の―安久李さんの声が耳に響いたからだ。

「綾芽、よく聞いて。確かに俺は悪魔だ。君が憎み、恨み、一族の仇である悪魔だ。でもね…俺は綾芽を傷つけたくないんだ」