1999年2月。

お互いの気持ちを確かめ合ってから、
2ヶ月ほど過ぎた頃、
私は初めてこうちゃんの部屋を訪れた。

当時、こうちゃんが暮らしていたのは
単身赴任者用のワンルームのアパート。

部屋の中に家具はほとんどなくて
小さいテーブルとストーブだけが
ぽつんと置かれていた。


「何にもなくて、驚いた?

一人暮らしの男なんてこんなものだよ。」



「うん、なんだか寂しいくらいに何もないね。」


私は笑いながら言った。



確かに何もない部屋だったけど、


でも、そこにはちゃんと『妻』の影があった。


明るい色のカーテン。
うすいベージュと紺色のクッション。

これは、こうちゃんの趣味じゃない。

そして、棚の上にごく自然な形で飾られた家族の写真。


それまで現実として意識していなかったけど、

そうだった。


この人には、妻がいる。
守るべき家族がいるんだ。