ユースの仕事はいわゆる皿洗いと雑役。つまりトイレ等の掃除、
ベッドメイキング、ジャガイモの皮むき等等。
かなり大きなユースなのでバイトが10数人いた。

そのうち日本人が4人。まだ来たばかりの画家のおじさん、
19才の留学生と長髪のギターリスト。
ギターリストが一番古株でその友人が今帰国中とのことだった。

ユースではとにかく盗難が多かった。
着いたばかりの日本人やカナダ人が狙われた。
あまりに頻繁に盗難事件が続くので皆で工夫して、

大きな張り紙を各所に貼り付け、
夜手分けして駐車場の見張りをした。

そうしたある晩、オサムは仲のいい黒人の留学生と二人で
車の中に隠れて見張りをしていると、ついに現れた。
カナダ人のツーリストナンバーのバンに人がいる。

ガサゴソガサゴソ間違いない。半ドアでダッシュボードをあさっている。
どうしよう?掴まえられるか。反撃されたら怖いな。
黒人学生がオサムの耳元で、

「アイハヴァアナイデア」(ええ考えがある)
「カムウィズミー」(ついて来い)
そっとこちらの車のドアを開け彼の後に着いていった。

彼は大柄だ。何かあったらすぐに逃げよう。
彼はバンの後方ではなく運転手側前方にそっと回った。
「ヘイユウ!」(てめえ!)

突然大きな声でフロントガラスに大型ライトをかざした。
キョを突かれた間抜けな顔。口を半開きにして、
目がまん丸。ほんとにびっくりしたんだろうな。

「アイノウユウ!」(お前知ってるぞ!)
再び大声。我に返って彼は大慌てで後方に逃げ去った。
黒人学生の大声が後を追う。

「ネヴァービバック!」(二度と来るな!)
それから急激に盗難が減ったのはいうまでもない。
見たことあるような口ひげのアラブ系の顔だった。

今でも時々思い出す。