「そうだ、ねぇお兄ちゃん、この子のお名前はなんていうの?」

僕から離れ、そう訊ねてくる花音。

「名前?」

そんなものは考えていなかったけれど……。

このウサギは花音を悪者から護る騎士(ナイト)だ。ならば、強そうな名前がいいだろうか。

「そうだね……じゃあ、『五所川原』はどうかな」

「五所川原?」

丸い目をきょとんとさせた花音は、やがてにこっと笑った。

「かっこいい名前~! 五所川原くんだね。よろしくね、五所川原くんっ」

ウサギの鼻にちゅっとキスをして、花音はくるくると回った。



その元気が続くことを祈って会場入りした僕たちは、入り口で水琴さんと合流し、それぞれ用意されている控え室へと向かった。

「花音、大丈夫だから、落ち着いてね」

拓斗にそう言われ、五所川原を胸に抱きしめながら頷く花音。

僕も花音の頭を撫でてやり、そして水琴さんに視線をやった。

「それじゃ、妹を宜しくお願いします」

「ええ、任せて」

にこりと微笑んだ彼女の後ろで、花音専属執事の南原も笑顔で頷いた。

2人に何もないようにと、念のためについてきてもらったのだが……それは間違いではなかったようだ。