コンクール二次予選当日の朝。

リビングで支度をしている花音に、昨日、西坂に材料を用意してもらって作った、手のひらサイズのウサギのぬいぐるみを渡した。

白くてふわふわで、ピンクのリボンのついたウサギを両手に乗せ、花音は僕を見上げた。

「かわいい……これ、どうしたの?」

「花音が上手に弾けますように、って願いを込めたお守りだよ」

緊張しないで落ち着いて弾けるようにと、妹のために作ったものだけれど。半分は、手持ち無沙汰になった自分のためだった。

何かの作業に集中しているうちは、焦りで澱んでいる心が透明になった気がして、楽だったのだ。


そんな理由で作られたものでも、花音は喜んでくれたようで。

「ありがとうお兄ちゃん、だいすきー!」

と、ぴょんと飛び上がって抱きついてきた。

そんな妹を受け止める僕も、少しは気持ちが軽くなったような気がする。

あまり力を入れすぎずに──今日は、本番に向けての肩慣らし程度にと、素直に受け入れることが出来た。

本選で自分の実力を存分に発揮出来ればいい。

そこで一番上に立って、少しでも母に近づいて、そして──浅葱亜子を押さえつけられれば、いい。