更に撫でまわすと、怒ったような声が上がった。

「ちょっとやめてよっ」

「いや……かわいいな、と思って」

「子ども扱いしないで!」

ぷう~と膨らんだ頬が、なんとも愛らしい。

──恐ろしいのに、愛らしいとは。

だからこそ、拓斗を完全に敵視することが出来ないのだけれど。

何故彼はそんなに真っ直ぐでいられるのだろうか。一度その頭の中身を見てみたい。



嫌がる拓斗の頭を満足するまでグシャグシャにかき回した後、客間を出て廊下を行くと、庭の方からヴァイオリンの音色が聞こえてきた。

リビングから窓を開けて外に出ると、噴水の向こう側に見える東屋で、花音がコンクール用の曲を練習していた。

J.S.バッハ作曲『無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番』より『ガボット』。

花音が苦手とする、深みのある音が欲しいバッハ。

比較的親しみやすい明るい曲である『ガボット』だけれど、弾みすぎず、かと言って単調になりすぎないように弾くのは難しい。

花音がその選曲をしたときには驚いたものだけれど、小学生最後のコンクールだ、何か思うところがあるのだろう。

いつも以上に真摯に曲に取り組んでいたのが見ていて分かった。

古典舞踊の勉強もしていたようだし、一緒に踊らされたこともあった。

その頑張りを潰されたくはない。その気持ちは分かる、けれど……。