「今はコンクール前だから、ちょっと頑張るのも仕方ないかなって思ってたけど……。昨日水琴先生にも言われたし、僕、今日は兄さんを見張ってるからねっ」

くりくりの大きな目を真剣にして、僕を見張ると言う拓斗。

真っ直ぐなその目は、本気で僕を心配している。


──分かっているのかな、君は。

僕は、弟の君の演奏に嫉妬する、情けない兄なのだ。

そんなに心配してもらう価値なんか、ないのにね……。


「分かったよ、無理はしないから」

蓋を閉じて、拓斗に微笑みかける。

「本当?」

若干上目遣いの疑いの眼差しは、花音にそっくりで愛らしい。

初めて会った人には、よく花音と双子かと聞かれるけれど。背丈も似たようなものだし、本当に2人は良く似ている。

本人は睨みつけているつもりなのだろうけれど、かえってその愛らしさが引き立つくらいだ。

これが、演奏を始めると“ああ”なるのだから。

本当に、恐ろしい子だ。


手を伸ばして、拓斗の頭をわしわしと撫でる。

「え、ちょっと、兄さんっ?」

戸惑った様子で眉を潜める拓斗。